
重厚な佇まい、けれど驚くほど軽い——平井悠一さん/陶工房つばめの器が届いています。
石川県で制作をされている、陶工房つばめの平井悠一さん。
「暮らしの中で使える器をテーマに制作しています」
平井さんの器を初めて手にしたとき、多くの方がまず驚くのは、その「軽さ」です。
石のような、あるいは金属のような重厚な佇まいからは想像もつかないほど、実際に持ち上げてみると拍子抜けするくらい軽い。
軽さの理由——信楽の土と、削りの技術
この軽さを支えているのは、滋賀県から取り寄せている信楽の土の特性と、徹底した「削り」の技術です。
信楽の土は耐火性が高く強度があるため、極限まで薄く削り出しても形が崩れません。つまり、この軽さは土の強さがあってこそ実現できるものです。
見た目の印象よりも軽くて使い回しがよいことが多く、一方でその軽さに反して手触りは硬さがあり、堅牢な一面もあります。
見た目はどっしりと落ち着いているのに、洗うときも使うときも指先にストレスを感じさせない。
毎日つい手に取ってしまう理由は、この実用性の高さにあるのだと思います。
経済学部からの道のり——現場で培われた技術
平井さんの歩んできた道は、陶芸家としては少し異色です。
1985年金沢生まれ。大学時代は経済学を学び、スポーツに打ち込む日々を過ごしていました。
陶芸への入り口は、専門の教育機関ではありません。
25歳くらいの頃、偶然出会った陶芸教室の2階にあるカフェギャラリーで働き始めたことがきっかけだったそうです。そこで5年ほど、出張陶芸教室などを通して試行錯誤しながら技術を身につけていきました。
この「外部からの視点」が、既存の慣習にとらわれない、一人の使い手としての「使いやすさ」への追求につながっているように感じます。
泥彩(でいさい)——古道具と共鳴するテクスチャー
平井さんの作品を象徴するもう一つの要素が、泥状の粘土を表面に施す「泥彩(でいさい)」という技法です。
この技法によって生まれる「かすれ」や「溜まり」など、あえて均一さを排した微細な凹凸は、アンティークや古道具の世界観と深く共鳴しています。
平井さんはクラフトフェア等に出店する際も、自前でアンティークの棚を持ち込み、そこに器をディスプレイしているとのこと。
「アンティークや古道具に似合うようなうつわになるように作っています」
色彩も非常に抑制されています。基本となる白と黒、そして古道具やヴィンテージの瓶をイメージした落ち着いたトーンの新色「青」。
古い道具と一緒に並べたときに違和感のない器——その調和こそが、平井さんの目指す美学なのだと思います。
「うつわを作る人」でありたい
多くの評価を集めながらも、平井さんはインタビューにおいて「自分のことを陶芸家というより、うつわを作っている人だと思っている」と語っています。
2015年に設立された「陶工房つばめ」という名は、以前使用していた工房につばめの巣があったことに由来するそうです。家庭に幸運を運び、季節の訪れを告げる鳥のように、暮らしに小さな喜びを届ける——その屋号には、そうした想いが込められています。
かつて金沢市の石引地区に工房を構えていた平井さんは、2020年、四季を感じられ海が見える白山市美川(みかわ)へと拠点を移しました。
朝日を浴びて仕事をし、家族と一緒にごはんを食べる。自然のサイクルの中で作陶を続ける暮らしから生まれる器には、その穏やかな空気が宿っているように感じます。
「日常の暮らしが、小さな非日常の暮らしになってくれたら幸いです」
いつものカップやお皿を手で制作されたものにかえたとき、ふと感じる小さな喜び。
平井さんの器は、そうした日常の手触りを静かに変えてくれる存在です。
■ 陶歴
1985年
金沢生まれ
2015年
陶工房つばめを設立
2020年
白山市美川に工房を移転




